後期高齢者医療制度とは何か——2008年に始まった現役世代搾取の仕組み

後期高齢者医療制度(通称「長寿医療制度」)は2008年に創設された。それ以前は75歳以上の高齢者も、会社員の家族であれば被扶養者として健康保険に加入し続けることができた。しかし2008年以降、75歳を超えると強制的に後期高齢者医療制度に移行させられる制度に変わった。

この制度の財源構造こそが問題だ。後期高齢者医療制度の財源は「公費(国・都道府県・市町村の税金)」が約50%・「後期高齢者本人の保険料」が約10%・「現役世代が加入する健康保険・国民健康保険から出る支援金」が約40%という割合で賄われている。

後期高齢者医療制度の財源構成比(2024年度概算)
財源の種類割合(概算)主な負担者
公費(税金)約50%国・都道府県・市町村(全納税者)
後期高齢者支援金(現役世代の健保から)約40%40〜74歳の健康保険・国民健康保険加入者
後期高齢者本人の保険料約10%75歳以上の被保険者本人——たった10%!

この10%という数字に注目してほしい。後期高齢者医療の費用の10%しか、高齢者本人が払っていない。残り90%は公費(すなわち現役世代を含む全ての納税者)と現役世代の健康保険料で賄われている。「医療保険は自分の将来の医療費のために積み立てる」という常識的な理解は、後期高齢者医療制度に関しては完全に覆されている。現役世代は自分のためではなく老人のために保険料を払わされているのだ。

後期高齢者支援金の計算方法——あなたの健康保険料からいくら持っていかれているか

後期高齢者支援金は健康保険の加入者数と標準報酬月額等に基づいて算出され、各健康保険組合・協会けんぽ・国民健康保険に割り当てられる。協会けんぽに加入する会社員の場合、保険料率(労使合計で約10%)のうち約1.5〜2%相当が後期高齢者支援金に充てられているとされる。

年収別・後期高齢者支援金等の概算負担額(協会けんぽ加入の会社員・本人負担分)
年収後期高齢者支援金(年間・概算)前期高齢者納付金相当(年間・概算)介護納付金(40歳以上・年間)合計
300万円約2.5〜3万円約1.5〜2万円約2.5〜3万円約6.5〜8万円
500万円約4〜5万円約3〜4万円約4〜4.5万円約11〜13.5万円
700万円約5.5〜7万円約4〜5万円約5.5〜6万円約15〜18万円
1,000万円約7.5〜10万円約5〜7万円約7〜8万円(標準報酬上限)約19.5〜25万円

※概算。健保組合・年度により変動。上限(標準報酬月額上限)がある。

年収1,000万円の会社員は年間20〜25万円を高齢者医療・介護のために「別途」負担している。月換算で1.7〜2万円が老人の医療費として徴収されているのだ。自分の医療費のためではなく、老人のために。これが「健康保険料の内訳」の真実だ。

 

後期高齢者の医療費の実態——1人当たり年間90万円超を使う高齢者医療

現役世代が支援金を通じて補填している後期高齢者の医療費——その実態を見れば、支援金の巨額さが腑に落ちる。

年齢層別・一人当たり医療費の比較(2022〜23年度)
年齢層一人当たり年間医療費現役世代(30〜40代)比
0〜14歳約19万円約1.2倍
15〜44歳(主な現役世代)約16万円基準(1.0倍)
45〜64歳約35万円約2.2倍
65〜74歳(前期高齢者)約56万円約3.5倍
75歳以上(後期高齢者)約90〜95万円約5.6〜6倍

※厚生労働省「医療保険に関する基礎資料」等を参考に作成。

75歳以上の後期高齢者の一人当たり年間医療費は約90〜95万円。現役世代(30〜40代)の約5.6〜6倍だ。後期高齢者人口は約1,950万人(2024年)。90万円×1,950万人=約17.5兆円の医療費が後期高齢者によって使われている計算になる。

この17.5兆円を誰が払うか——10%(約1.75兆円)が後期高齢者本人、50%(約8.75兆円)が税金、40%(約7兆円)が現役世代の支援金だ。高齢者一人が年間90万円使う医療費のうち、本人が払うのは9万円(10%)だ。残り81万円を公費と現役世代の保険料が払っている。

医療費多消費の実態——入院・手術・薬代の構造

なぜ後期高齢者の医療費はそれほど高いのか。主な理由は「慢性疾患の増加」「入院日数の長さ」「高額な薬剤費」の3点だ。

後期高齢者の医療費を押し上げる主な要因
要因内容規模感
入院日数の長さ後期高齢者の平均入院日数は現役世代の約3〜4倍。慢性疾患・認知症による長期入院が多い入院費用が医療費の約40〜50%を占める
多剤処方(ポリファーマシー)複数の慢性疾患を抱える高齢者は複数の科にかかり、多数の薬を処方される。月10〜20種類以上の薬を飲む高齢者も珍しくない薬剤費が医療費の約25〜30%
頻繁な通院週1〜2回の定期通院(血圧・糖尿病・整形外科等)が積み重なる外来費用が医療費の約30〜35%
生命維持治療終末期医療(癌・心不全・認知症)への集中的な医療介入。1回の入院で数百万円になることも終末期医療は生涯医療費の約40%が最後の1〜2年に集中するとされる

特に注目すべきは「終末期医療の集中」だ。人間の生涯医療費の約40%は、最後の1〜2年に集中するという研究がある。高齢者が重篤な状態になった際に、積極的な延命治療を行うことで医療費が急増する。本人の意志確認が十分でないまま行われる延命治療が、医療費を押し上げている側面もある。

 

前期高齢者納付金・介護納付金——健康保険料に隠れた二重三重の高齢者支援負担

後期高齢者支援金だけではない。健康保険料の中には「前期高齢者納付金」という負担も含まれている。さらに40歳以上の被保険者には「介護納付金」が上乗せされる。現役世代の健康保険・介護保険料に含まれる高齢者向け負担を整理しよう。

前期高齢者納付金とは——65〜74歳の医療費調整

65〜74歳の高齢者(前期高齢者)は、会社員であれば健康保険・退職後は国民健康保険・退職者医療制度などに加入する。問題は前期高齢者を多く抱える国民健康保険(自営業・退職者が多い)と、前期高齢者が少ない組合健保・協会けんぽとの間に生まれる費用負担の不均衡だ。

この不均衡を調整するために「前期高齢者納付金」が設けられており、前期高齢者が少ない健康保険組合・協会けんぽから、前期高齢者が多い国民健康保険等への財政移転が行われる。会社員が加入する協会けんぽは前期高齢者が相対的に少ないため、納付側(支払う側)となることが多い。年間約5.5〜6兆円規模がこの仕組みで動いている。

介護納付金——40歳以上の健康保険料に上乗せされる老人介護費

40歳になると健康保険料に「介護保険料(介護納付金)」が上乗せされる。協会けんぽの場合、介護保険料率は約1.82%(2024年度・労使折半で本人負担は約0.91%)だ。年収500万円の場合、本人負担の介護保険料は年間約4〜4.5万円になる。

この介護保険料(介護納付金)は介護保険の財源として使われる。現在の介護保険給付費は年間約12〜13兆円規模で、そのうち約50%が保険料収入(第1号:65歳以上、第2号:40〜64歳)から、残り50%が公費から賄われる。40〜64歳が払う第2号の介護保険料(年間約3.5兆円規模)は、現在の高齢者の介護費用として使われる賦課方式だ

 

13.5兆円という規模感——何と比較すればその巨大さが伝わるか

後期高齢者支援金+前期高齢者納付金で約13.5兆円——この数字の規模感は、比較対象を置くことで初めてリアルに伝わる。

13.5兆円の規模感——他の国家予算との比較
比較対象金額13.5兆円との比
防衛費(2025年度)約8.1兆円13.5兆円は防衛費の約1.7倍
文部科学省予算(2025年度)約5.3兆円約2.5倍以上
東京都の一般会計歳入(年間)約8兆円台ほぼ1.5〜2年分
日本全体の公共事業費約6〜7兆円約2倍
全国の大学授業料を完全無償化するコスト年間約3〜4兆円3〜4回分以上の財源
児童手当の総給付額(年間)約3兆円4.5倍——子育て支援を4倍にできる
GDPに占める割合GDP(約600兆円)の約2.3%——これだけで消費税1%超分

もし13.5兆円を「現役世代・子育て世代のための給付」に使えたとしたら何ができるか。全国の保育所を完全に無償化し、大学の授業料を半額にし、若者向けの家賃補助制度を作り、児童手当を大幅に増額し——それでも余りがあるだろう。

しかし現実にはこの13.5兆円は丸ごと高齢者医療の補填に使われており、払った現役世代本人が直接恩恵を受ける部分はゼロだ。「今払えばいつか自分が受け取れる」という思い込みも正確ではない——賦課方式の下では現役世代の支払いはそのまま現在の高齢者への給付に直結し、将来自分が受け取れるかどうかは別の話だ。

2040年に向けた後期高齢者支援金の増加予測

現在約7.5兆円の後期高齢者支援金は、2040年に向けてどこまで増えるのか。後期高齢者人口は2025年の約1,950万人から2040年には約2,400万人以上に増加すると見込まれる。医療費の高騰を考慮しなくても、単純な人数増だけで支援金は2割以上増加する可能性がある。

後期高齢者支援金の将来推計
年度後期高齢者人口(推計)後期高齢者支援金(推計)年収500万円の負担増(現在比)
2025年(現在)約1,950万人約7.5兆円基準
2030年約2,200万人約8.5〜9兆円年間+0.5〜1万円
2040年約2,400万人以上約10〜13兆円年間+2〜4万円

※人口推計に基づく概算。医療費の増加・制度改革により実際の数値は変動する。

 

国際比較——日本の高齢者医療費自己負担は世界で最低クラスか

日本の後期高齢者の医療費自己負担(原則1割)は国際的に見てどのレベルか。

主要国の高齢者医療費自己負担率の比較(2024年頃)
高齢者の医療費自己負担特徴
アメリカメディケア加入者も20%負担(限度額なし)。民間保険でカバーが必要高齢者でも相応の自己負担。公的保険だけでは不足
ドイツ法定疾病保険で10〜20%程度の一部負担。薬代等も自己負担あり現役と同等の保険料・負担構造
スウェーデン受診1回あたり定額負担(約1,500〜2,000円)。年間上限あり定額負担で普遍性を担保
日本(75歳以上・低〜中所得)原則1割負担(2022年改革で一部2割に拡大)OECD中最低水準の自己負担率。残り90%を公費と現役保険料が補填
韓国外来20〜60%程度の自己負担(入院は10〜20%)日本より高い自己負担

日本の後期高齢者の医療費自己負担は、OECD主要国の中でも最低水準だ。原則1割(一定所得以上で2割・現役並み所得は3割)という負担率は、他国と比較して圧倒的に低い。この低さが医療費の過剰消費を生み、現役世代の支援金負担を押し上げている構造だ。

「高齢者はお金がない」という反論もあるが、日本の高齢者(65歳以上)の平均貯蓄額は約2,400万円で、全年齢層で最も高い水準だ。低所得の高齢者への保護は必要だが、貯蓄が潤沢な高齢者に1割負担(実質ほぼ無料)の医療を提供し続けることへの合理的な根拠は薄い。

 

2022年の「2割負担」拡大——遅すぎる改革と現役世代が求めるべき本当の改革

2022年10月から、後期高齢者のうち一定以上の所得がある人(単身で年収200万円以上等)の医療費自己負担が1割から2割に引き上げられた。この措置の背景には、現役世代への支援金(後期高齢者支援金)の膨張を少しでも抑制する目的がある。

しかしこの対象は後期高齢者全体の約20%に過ぎない。残り80%は引き続き1割負担のままだ。高齢者の医療費自己負担を増やすことへの政治的抵抗は強く、現役世代の支援金負担の根本的な抑制には至っていない

現役世代が求めるべき医療費改革の方向性
改革案効果政治的障壁
高齢者の自己負担率を原則2〜3割に引き上げ支援金を年間2〜3兆円削減可能。現役世代の負担が月5,000〜10,000円減少高齢者票の喪失を恐れる政治家が反対
資産課税型の自己負担設計貯蓄・資産が多い高齢者には高い負担を求める。本当に困窮する高齢者は1割以下に資産情報の把握・制度設計が複雑
多剤処方の適正化・ジェネリック義務化薬剤費を10〜20%削減可能製薬業界・医師会の反対
終末期医療の透明化・事前指示書の普及意味のない延命治療を減らし、医療費を合理化「命の値段を議論するな」という感情論
後期高齢者の支援金率(40%)を30%に引き下げ・税負担に転換現役世代の健康保険料負担を直接削減財源の確保が課題(消費税増税が必要になる可能性)

「高齢者のために払う13.5兆円を減らして、現役世代に還元せよ」という主張は、合理的で正当な政治的要求だ。高齢者有権者の多数票に阻まれてきたこの議論を、現役世代が選挙と社会的発言力で押し上げていく必要がある。

 

現役世代が今すぐできる個人レベルの対策

制度改革は政治が動かなければ実現しない。しかし個人レベルでは「搾取される金額を最小化する」ことが今すぐできる対策だ。

後期高齢者支援金の負担を最小化する個人戦略
  • フリーランス+マイクロ法人化:役員報酬を低く設定することで標準報酬月額を下げ、健康保険料(後期高齢者支援金を含む)の計算基準を最小化できる。詳細は専門家に相談
  • 副業・投資収益の活用:給与所得を抑えながら投資収益・事業収益を増やすことで、社会保険料の計算対象所得を圧縮できる可能性がある
  • iDeCo・NISA で自力資産形成:公的年金・健保給付への依存度を下げ、自力で老後医療費・生活費を賄える資産を構築する
  • 選挙に必ず参加する:高齢者の医療費自己負担引き上げを主張する候補者・政党を支持する。現役世代の投票率が上がれば政治は必ず変わる

個人で払う支援金を完全にゼロにすることは制度上不可能だ。しかし「仕組みを知って合法的に最小化する」ことと「知らずに言われるがまま払い続ける」ことの差は、生涯で数百万円になる。まず知ることが始まりだ。